Pass The Message

自分自身から自由になること

第15回目の「人生の旅」メッセージは、廻 由美子さんからのメッセージです。
<西村祐さんからのリレーバトンが廻 由美子さんへ>
それではメッセージ、スタート!!

このリレー・エッセイのバトンを渡してくれたフルーティストの西村祐さんと同様、私も音楽家です。
彼はフルート、私はピアノ、という小さな違いはあるけれど。
西村さんはもともと私のピアノの生徒でしたが、今では音楽という宇宙に泳ぐ仲間です。
ときどきお互いがどこにいるのか見えなくなることもあるけれど、再会すればお互いの存在を前よりも一層うれしく感じ、
また新たなる自由を求めて泳いでいく後姿に無言でエールを送り合う、という関係が続いています。

音楽をやるということは、こうして自由の本質を探していくことでもあるんです。
自由を探すといっても「自分勝手にやれる場所を探す」ということではないのはもちろんですが。

まずは自分自身から自由になること、これが一番です。

束縛というものは外から来るものだけではないようで、実は自分自身から出てきてしまうことが多いみたいなのです。
「こうしたら変な人に見られるんじゃないか」とか「みんなはこうしてる」とか、ついつい自分自身を縛ってしまうのですね。
これが自分の可能性を狭めてしまうのではないでしょうか。
さらに困ったことには、そうなると他人が自由にしているのも気に食わなくなってしまうのか、
自由な感覚を持つ人を「あの人は世間とちがうからヘンだ」と言ったりするようになります。
あるいは「いいわね、自由で」とヒネクレた口調になったり。

自由というのはこのようにいつも「弾圧」を受けているものなんです。ですから自由を得て、
それを持続させるには大変なエネルギーと精神力が必要です。
「伝統重視」で退屈と思われているかもしれないクラシック音楽作品の数々は、
底辺に流れる自由と革新の精神を決して手放すことなく歴史を生き抜いてきました。
生き抜くために堅牢なフォルムを作り、フォルムがあるからこそ自由でいられましたし、
またそれを破壊しようというエネルギーも生まれました。
クラシックの音楽作品で風雨に耐えて残っているものは自由と革新の精神を死守した底光りのする強いものばかりです。
それは演奏によって何度も生まれ変わり、若い世代へ希望をつないできました。
その「心意気」を受けとめ、未来へ渡していくのが我々音楽家の仕事でもあるのだと思っています。

我々の誰にも平等に人生は一度きりです。この一度だけしか経験できない人生を、
「心意気」を忘れずに泳ぎ続けたいものです。
このリレー・エッセイもこまた、「心意気」から始まっているようです。
このバトンが未来へ続いていくことを願っています。

次は、作曲家でジャズ・ピアニストの斉藤友子さんにバトンを渡したいと思います。
斉藤さんはジャズ、私はクラシックですが、自由と革新への「心意気」が合って
一緒にジャズ・アレンジのバッハ「バック・トウ・バッハ」というCDを作りました。
広い宇宙での、幸せな出会いでした。

2010/10/15廻 由美子・めぐり ゆみこ

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プロフィール:
廻 由美子(めぐり・ゆみこ/ピアニスト)

桐朋学園大学音楽学部ピアノ科を卒業の後渡米。
インディアナ大学音楽学部で ジョルジュ・シェベックに学び、最高位を得て卒業。
これまでに、バロックから古典派・ロマン派・近現代に至る10数枚に及ぶCDをリリース、
「レコード芸術誌・特選盤」「CDジャーナル誌・年間ベストCD」「音楽の友誌・推薦盤」等に
数多く選ばれるなど、いずれも高く評価されている。

ソロリサイタルはもとより室内楽、他ジャンルとのセッションなど活発な演奏活動を行い、
ソリストとしても新日本フィルハーモニー交響楽団、東京都交響楽団、名古屋フィルハーモニー交響楽団、
オール・ジャパン・フィルハーモニー、東京フィルハーモニー交響楽団などに招かれて共演。

また、全音出版によるガーシュウィンの「ラプソディー・イン・ブルー」「3つのプレリュード」
「ソングブック」全3冊を校訂、演奏解説。

年2回主催する音楽祭「新しい耳」は7回目をむかえ、
また、「ぶらあぼ」誌上での連載エッセイは100回を超えるなど、多方面にわたって活躍している。
現在、桐朋学園大学音楽学部教授。

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